▼この記事の続きです▼
来客してきた奴は、森の中の出来事を懸命に私に語りかけている。
「森で気絶した僕に寄り添ってくれましたよね!?傷も治していただいて感謝しているんです!」
「私はそんなこと知りません。他の誰かと勘違いされてるんじゃないですか?」
奴はどうしても思い出して欲しいらしく中々引き下がらない。きつね姿のゼリー体はあの場所にいくらでもいる。人違いと無理やりでも思わせて去ってもらわねば。
「……ほら!あの森で会ったあと、しばらくして、きつね型の群れの場所に来たじゃないですか!僕ですよ!りょくです!」
「?いや、知らないです。」
こいつ直接会いに来たのか。居なくなって正解だったわ。
「そこで再会して、仲良くして頂いた者です!」
「え?」
軽く動揺してしまった。
会っているはずがないのだ。あの後私は居なかったのだから。
「僕の手料理、また振る舞いますよ!気に入って頂いて嬉しかったんです!また色んなところへお出かけしましょう!もみじさん!!」
もみじ、同じゼリー体から生まれた、人間で言うところの私の双子、クローンのような存在。
「私はもみじではなくかえでです。やはり人違いでしたね。」
「ぁ、あれ?違いましたか?申し訳ありません。余りに雰囲気が似ていたもので。」
そういってこいつは、顔を赤くしながら潤んだ目で真っすぐ私を見つめていた。私にもみじの姿を重ねて見ているんだろうか。
「分かって頂けたらいいんです。あまり思い込みで話を進めない方がいいですよ。」
「お騒がせしてすみません。改めまして、里山りょくと申します。迷惑かけたばかりで恐縮ですが、お隣同士、仲良くして頂きたいです。こちら、つまらないものですが」
「わざわざありがとうございます。いただきますね。私は瓜川かえで、よろしくおねがいします。」
なんとか帰ってもらうことができた。ったく、もみじのせいであいつに、りょくに懐かれそうで嫌だな。連絡するか。
「連絡するなんて珍しいね。久しぶり、かえで」
「なぁ、もみじ。りょくっていうたぬき、覚えているか?」
「え!?りょくくん!?勿論♡あの子かわいいのよ〜もう!大好き」
「そのりょくが人型になって私の家の隣に引っ越してきたんだ。」
「え〜もう最高じゃない♡かえで、あなたラッキーね。」
「なあ、もみじ。りょくに会いに来てくれねぇか。あいつお前に会いたがってたみたいだし。」
あの様子を見るに、りょくのもみじへの想いは強い。もみじを直接りょくに会わせて、別人であることを分からせて、私への執着心を少しでも減らしていきたい。
「あーん。行きたいのは山々なんだけど、私、いま本命の子、別にいるから裏切れないのよ〜。ごめんねぇ」
はぁ。りょくも惚れる相手を間違えたな。もみじは相手をころころ変えるやつだ。
「勘弁してくれよ。おまえのせいであいつに目をつけられるのごめんだぞ?」
「う~ん?かえで、りょくくんのこと、厄介払いしようとしてる?あのかわいくて天使みたいなあの子に意地悪なんてまさか、まさかしないわよね??????」
「っ!しないy」
「かえで?りょくくんと仲良くしないなんて、そんなことする生物はこの世にだぁ~レも居ないのよ?存在しないの?分かる?」
「仲良くする、勿論」
「うふ!そうよね♡あぁ~羨ましいわ!素敵な報告ありがとぉ〜じゃ、またねぇん♡」
……。
もみじを怒らせたことが一度ある。奴は自身の思想と著しく違う者を嫌い、見つけ次第、思想が合うまで執着する。あの時は頭がバグるかと思った。軽くトラウマである。
りょくのもみじへの想い入れの強さも、もみじの洗脳が原因じゃないか?ビビりで精神弱そうだしな。だとしたら、なんか、不憫だ。
関わりすぎない程度に、多少は優しくしてやるか。
そうして、私の心休まる1人時間は減っていくのであった。
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