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プロローグ
あの子はここに居るのだろうか
思い切って、きつね型の群れがいる住処まで来てしまった。どうしても会いたい子が居たから。
しかし、どこを探しても居ない。見当違いだったかなと考えていると、あの子と見た目が瓜二つの子を見つけた。
「すみません!あなたと姿の似ているきつね型の子はここに居ませんか?」
「あら、かわいらしいたぬきさん♡あなたの探している子なら、1年くらい前にここを出ていったわよ」
どうやらあの子は引っ越してしまったらしい。もしかして、僕がしつこくあの場所で待っていたからなのかな……。
「僕、嫌われちゃったかな」
そう口をつくと、自然と苦い笑いがこぼれた。
「あの子、前から一人暮らしするための資金を貯めていて、丁度貯まったから出ていっただけよ。それに、あの子は1人でいることが好きで、自分以外は興味ないって感じだから、そんなに貴方のこと、嫌いになったり恨んだりはしないと思うわ。気にしないでね。」
「そう、なんですか……」
偶々、タイミングが悪かっただけ。あの子は僕に嫌気が差して出ていったわけではない。良かった。
「あなた、大丈夫?」
良かったはずなのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。なんで、涙が止まらないだろう。
生い立ち
僕たちゼリー型生命体は皆、獣で言うところのしっぽの位置にアンテナを持っている。同族同士、アンテナで意思疎通をしたり、情報を譲受しあったりする。
僕は、アンテナが他の個体と少し違うのか、同族の雰囲気とか感情のようなものを生まれつき感じることができた。
僕は友達が欲しかった。
たぬき型の仲間と一緒に過ごしている間も、気に入られたい、仲良くなりたいから、皆の嫌がってやらないような仕事は積極的に受けて、繋がりを持ちたいから、食べ物をお裾分けした。他人に親切にするしか、仲良くなる方法が分からなかった。周りも、僕に対して優しく接してくれたが、僕に関心を向ける子は居なかった。
周りの子には、一緒に話をして盛り上がれる相手がいる、一緒に感動し、時にすれ違いながらも仲直りして、感情をぶつけ合える相手がいる。それがとても、羨ましかった。
出会い
ある日、気晴らしに森で散歩しにいったときのこと。
木漏れ日に照らされキラキラ輝く小川が綺麗で、近くに座って眺めていた。そんなとき、近くの草場から気配を感じた。草場から、僕を見ている誰かが居る。
誰なんだろう。
話しかけたら、答えてくれるだろうか?
そんな期待を抱いて、草場の方へ話しかけた。
「誰か、いるのでしょうか…?」
返答はない。
誰が居るのか確かめたくて、僕は草場に近づいた。草がざばっと蠢く。
草場から勢いよく出てきたのは、世にも恐ろしい怪物であった。
「うお”お“お“お“ぉ“お”!!」
「ぴゃーーーぁ……」
そこで意識は途絶えた。
暖かい心地に包まれる。目を開けると僕の近くから遠くへ向かって走っていく足音が聞こえた。はっと気が付き足音の方へと振り向くと、遠くで僕を見つめる耳と手足がこげ茶色、全身の色がきいろの子がいた。
「ま、まって!」
僕が言葉を口に出すと、あの子は走り去っていってしまった。
僕のことを警戒しているみたいだ。初めて会う相手だし、仕方ないよね。
仲良くなれるチャンスを逃して、残念に思っていると、腕のところに違和感があった。
僕のゼリーとは違う質のゼリーが付いていたのだ。まだ付着しきっていないため、少し退かして見てみると、紙で軽く切ってしまったときと同じくらいの、小さな切り傷があった。
人間と違い、ゼリーの傷口から出る液体は自身の色と同じ色、ただでさえ小さな傷であるのに、通常の生物以上に色が同化していて見つけるのが難しい。
あの子が、傷口を治してくれたのか?
僕が目を覚ます直前まで、僕を見ていてくれた?
親切にしてくれたことが嬉しかった。
だけど、それ以上に僕の小さな傷ですら見つけてくれたことがすごく嬉しかった。
あの子と仲良くなりたい。
ここに来たら、また、会えるかな?
翌日あの場所で待っていたら、あの子はまた来てくれた。だけど、話しかける前に遠ざかっていってしまった。それから毎日、僕はあの場所に訪れた。
せめて一言話したい。感謝を伝えたい。
そして、あの子が来なくなった1年後、僕はあの子と同じきつね型の群れが住む住処を見つけた。
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