プロローグ
私は1人の時間が一番好きだ。
自分のやりたいことを制限なくやることができるからだ。
対して、人付き合いは嫌いだ。周りに合わせて行動する煩わしさ、他人の機嫌を気にして溜まるストレス、ただただ疲れるだけだ。
かといって、1人で生きていける訳では無い。ならば、生きていく上で必要最低限の人付き合いに留めたい。
余計な関係を築かないよう、親しすぎず、ヘイトをため過ぎず、目立たないようたち振る舞う。
友達なんて以ての外だ。貴重な1人の時間を潰す存在だから。
周りは友達のいない私を憐れんでいたが、私はむしろ誇りに思っていた。自由で充実した日々であった。
あいつが来るまでは
再会
ピンポーン
インターホンがなった。受話器をあげる。
「どちら様ですか?」
「あ、っと……隣に引っ越して来たものです!ご挨拶をしに、参りました。」
珍しい来客だと思ったら、隣に引っ越して来たのか。軽く挨拶して帰ってもらおう。
ドアを開ける。ん、こいつ獣耳とアンテナが生えている。同種か。訪ねてきた相手は、私の姿を見ると目を見開いた。
「……どうされましたか?」
「ぼ、ぼくのこと覚えていませんでしょうか?」
「人違いじゃないですか?」
「会ったときは人型ではなかったんです!昔、小川の流れる森の中に通っていたたぬき型の者です!」
「…覚えがないですね。」
あいつか。厄介なやつと再会してしまった。
回想
私がまだきつね姿のゼリー体であったとき、同じきつね型の群れの中で一緒に住んでいた。
騙し合い、利用し合う群れの奴らと一緒にいるのが嫌で1人になる場所を欲した。
その時のお気に入りの場所が小川の流れる森であった。現世から切り離されたかのような、きれいな景色に惚れてから、時間を見つけては人目を盗んで訪れていた。
ある日、いつもの場所に向かっていたら先客が1人、ぽつんと座っていた。
それがあいつだ。1人になれる、お気に入りの場所だったのに。
草場に隠れながら、立ち去ってくれないかなと伺っていると、あいつは気配に感づいたのかこちらの草場を振り向いた。
おかしい。音は立てないようにしたはず!
「誰か、いるのでしょうか…?」
そう声をかけた後、奴はこちらに近づいてきた。どうする?この状況は弁明しづらいし、第一に関わり合いにはなりたくない。一か八か……
奴がこちらを見つける寸前に、ゼリー体を軽く変形させ、草場から私が思いつく限りの怖い顔をざばっと出した。
「うお”お“お“お“ぉ“お”!!」
「ぴゃーーーぁ……」
効果はテキ面。だが、奴はその場で気絶してしまった。逃げ帰ってほしかったのだが。
くそ、このままにして人目のつかない森の中で息絶えられるのも困るぞ。しかも、倒れた拍子に地面の枝に引っ掛けて怪我してやがる。訴えられるのも嫌だな。
私は奴の怪我したところに自身が生成したゼリーを塗って塞ぐ。奴の寝顔を見ながら、このまま起きなかったらなんて最悪な想像をして背筋を凍らせる。
そうこうしていると、奴の瞼が動く。やばい、素顔は見せないようにしないと!私はその場を離れる。
「ま、まって!」
大分距離を離してから振り返り、奴の無事を確認した後、その場を去った。
気絶するくらい怖い思いを奴はしたのだ。もうあの場所には来まい。と、翌日いつもの場所に来たら、奴はまた居た。私に会うことを目的としているのならと1週間置いたあとに訪れても奴は居た。思い切って我慢して、1ヶ月後に訪れても奴は居た。
私は諦めてあの場所に訪れるのをやめた。しばらくして、一人暮らしするための資金が貯まったため、きつね型の群れから離れて暮らすことにした。
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